UXデザイナーが語る!購買率330%再訪率132%改善のお買い物メディア『your SELECT.』に学ぶ、“意外な真相”を突き止めることの重要性
こんにちは!西新宿にあるデジタルマーケの会社『キュービック(CUEBiC)』でUXデザイナーをしています、朝倉です。
キュービックでは『インサイトに挑み、ヒトにたしかな前進を。』をミッションに掲げるだけあり、日頃から「インサイト」という言葉をよく使います。
さて、ここで質問です。
「インサイト」とは、一体なんでしょうか。
さまざまな言葉で説明できるように思いますが、最近僕がしっくりきている解釈は“意外な真相”というものです。
“意外な真相”とは、私たちや周りの人がまだ気づけてない、しかしユーザーにとっては非常に重要な事実のこと。
ここでひとつ、この“意外な真相”の理解に役立つ世の中の事例をご紹介しましょう。
たった3ヶ月でシェアが倍増!アリエールが起こしたイノベーション
1990年代のアリエールのマーケティングのお話です。
▼詳しく知りたい方はこちらをご参照ください
皆さんご存知のアリエールは、P&Gさんが展開する洗濯洗剤のブランドです。 90年代当時、シェアナンバーワンだったのは、花王さんのアタックという洗剤でした。
アタックは、少量でも洗濯物がしっかり白くなるという洗浄力を強みとして打ち出していました。
一方、アリエールもアタックに対抗して「一番白くなります」と洗浄力をアピール。しかし、当時のアリエールのシェアは8%ほどしかありません。
P&Gさんは、このシェアをなんとか伸ばしていきたいということで、打開策を講じます。
それが、「除菌ができる」という機能の追加です。
「除菌ができる洗剤」というのは、今や当たり前に感じてしまいますが、当時としては画期的。
洗濯用洗剤の機能として「除菌ができる」という認知は、生活者にとって新しいものでした。
そして、この機能が非常に強く支持されることとなり、たった3ヶ月でシェアが8%から16%まで拡大。これはまさに、小さなイノベーションが起きたと言っていい出来事でしょう。
もともと業界内の誰もが既に分かっていた「洗濯物を白くしたい」という生活者のニーズ。
P&Gさんはそこに目を向けるのではなく、「実はその裏側に“意外な真相”が隠れているんじゃないか」「生活者はもしかして“洗濯物を清潔に保ちたい”“バイ菌をなくしたい” のではないか」と。
既知のニーズを疑って、“意外な真相”を突き止め、そこにプロダクトを送り込んだ。その結果、アリエールはたった3か月で2倍のシェアを獲得することになったのです。
ユーザーの感情を強く動かし、より良い成果を生むためには“意外な真相”こそが欠かせない。このアリエールの話は、そのことを僕らに教えてくれます。
お買い物メディア『your SELECT.』の新体験構築プロジェクトのはじまり
さて今回は、そんな“意外な真相”を突き止めてより良い成果創出に繋がった、僕らキュービックの事例もご紹介したいと思います。
お買い物メディア『your SELECT.』の新体験構築プロジェクトのお話です。
まずは簡単に、メディアのご紹介から。
『your SELECT.』は、「買い物、本来のときめきが生まれる場所をつくる。」というブランドコンセプトのもと、“ユーザーごとの感性にあった商品との出合い”や“自分らしい選び方”、“『your SELECT.』ならではの深い商品情報の提供”によって、心から満足できる買い物体験を提供しているメディアです。
知識や目利き力のある専門家とタッグを組んで、"永く愛用できるもの"を厳選してご紹介するのが特徴。
17期(2022年)からはECモールに参入し、商品バリエーションも続々と増えています。
ここで少しだけ、このECモール経由で僕らがどのようにして売上をあげているのかを解説します。
『your SELECT.』の記事の中では、いくつかの商品が紹介されています。
記事を読んだユーザーが、紹介されている商品の中から気に入ったものを選んで、各モールへのリンクを踏み、購入画面へと移動します。
モールというのは皆さんもよく使う、amazon、楽天、yahoo!のこと。
ユーザーはそれぞれのモールで商品をカートに入れて、決済を済ませる。無事購入が完了すると、その売上の一部が「your SELECT.』の成果になる。
これが『your SELECT.』のざっくりとしたビジネスモデルです。
なお、この売上の発生傾向として「ユーザーは『your SELECT.』からモールへ遷移した後、24時間以内に購入の意思決定をしている」という事実があります。
これらを踏まえて、僕らは当初「ユーザーは商品の選び方さえ分かれば、遷移した先で迷わずに買い物ができる」と考えていました。
ですから、これまでの施策の方向性は「ユーザーのニーズに合った選び方の提供」でした。
具体的には、専門家に監修いただくとか、比較表をよりリッチにしていくとか、 メリットデメリットをとにかくわかりやすく伝えていくとか。こういうことが何しろ大事だと考えていたのです。
もちろん、それらの取り組みは重要なことです。これまでもこれからも強化していきたい施策ですし、間違ってはいません。しかし…
僕はなんとなくモヤモヤしていました。本当に?それだけで十分?
『your SELECT.』をもっと伸ばしたい、さらなる成長ドライバーがほしい。
そう思ったときに、何か欠けてるものというか、見落としてることがあるんじゃないかと。
そしてそれはもしかすると、自分たちや競合も気づいていないものかもしれない。
こんな考えから、僕らの“意外な真相”探しがはじまったわけです。
選び方さえ分かれば迷わず買い物できる→商品を買った後のリアルな未来が想像できるまで買えない
結論から申し上げましょう。
『your SELECT.』における“意外な真相”は何だったのか。
ジャンッ
僕らが突き止めた“意外な真相”は「ユーザーは、商品を買った後のリアルな未来が想像できるまで買えない」ということです。
この言葉だけ聞いてもあまりピンとこないと思いますので、 どうやって突き止めていったのかという過程の話を続けてさせてください。
プロジェクトの流れはこうでした。
まずは、現状把握。
先ほどお話の通り、『your SELECT.』の売上の多くは「ユーザーが24時間以内に『your SELECT.』を経由してECモールで購入する」ことで発生しています。
この事実を踏まえると、ユーザーは選び方が分かれば迷わず買い物ができるんじゃないか。僕らはそう思っていたわけです。
次に調査をしてみます。
比較メディアを使って買い物をしている人、『your SELECT.』を使いそうな人を中心に話を聞いていきました。
彼・彼女たちが実際の購入に至るまで一体何をしてるのか、どんな行動をとっているのかを探ります。
すると分かってきたことは、「買い物の検討期間は平均的に1ヶ月以上であること」「『your SELECT.』などの比較メディアに出会うのは買い物の序盤であること」でした。
図にするとこうなります。
検討期間は1ヶ月以上ある。そして、『your SELECT.』に出会うのは買い物の序盤である。
おや……!?ここで、ちょっとおかしいなということに。
そう、当初僕らが考えていたユーザー像と全然違うではありませんか!!
もともとは、『your SELECT.』を見て商品を選び、モールへ移ったユーザーは24時間以内に購入している。だから、『your SELECT.』の記事では商品の選び方さえしっかり案内できれば、ユーザーはその先で迷わず買い物できるのだと考えていた僕たち。
でも、調査によれば、検討期間は1ヶ月以上あるということだし、『your SELECT.』に出会っているのは買い物のだいぶ序盤であるということで。
…え?え?え??え???
この差はなんだろうということになります。
一見矛盾するような2つの事実を肯定して見えてきた新たなユーザー像
そこで、僕らは分析をしていきました。
繰り返しになりますが、もともと分かっていたことと、調査を通じて分かったこと。この2つは一見矛盾してるように見えます。
ただ、当初から分かっていたことはデータから導いたことですし、調査で分かったことは実際にインタビューで聞いたことです。どちらも疑いのない事実。
四苦八苦しながら考えてみました。
一方の事実を無視することは簡単です。当初からわかっていたことだけにフォーカスを当てるとか、 それぞれを分離して別のユーザー像を立てて考えてみるとか。そういうこともやろうと思えばできました。
だけどそれでは、いい仮説に出会えないし、今までの仮説の範疇を出られない…。
では、いっそ「どちらも正しい」と捉えてみてはどうかと。
当初分かっていたことも、調査で新たに分かったことも、どちらも正しい場合、どちらにも矛盾がないように説明できるとしたらどういうことが言えるのか。
こんな思考実験をやってみたわけです。
そもそもユーザーの買い物検討期間というのは長い。
そして、長い検討期間の中で、買い物の序盤にも、そして直前にも『your SELECT. 』を利用している。
これならば、先ほどの2つは矛盾なく説明することができるのではないかと考えました。
図にするとこうです。
買い物の序盤で選び方を理解するような行動があって、 そして買い物直前にも『your SELECT.』で確認をし、そこから24時間以内に購入をしている。そしてそこまでに要す時間は1ヶ月。
もともと僕らは、かなり狭いレンジでユーザーを理解していたことになります。この調査を踏まえて、かなり広い時間軸で ユーザー像を捉え直すことに成功しました。
これは、僕らにとっては画期的で、意外な発見とも言えるものです。
その上で、もう少し掘り下げます。
選び方を理解してから、ユーザーは一体何に時間をかけているのか。そして何故こんなに時間がかかるのか。この2つです。
すると、彼・彼女らは、SNSでのリサーチに非常に多くの時間をかけていることがわかってきました。
例えば、Instagramで商品名を入れて写真を見てみたり、YouTubeで使用レビュー動画を見てみたり、Twitterで評判を見てみたり。自分の気になった商品について、SNSで細やかに調べ上げていたのです。
つまりユーザーは、実際に商品を使った未来を想像できるように努めている。 そのために1ヶ月を費やしています。
この行動の根底にあるのは、「WEB情報への猜疑心」に他なりません。僕らがインタビューをする中でも、WEB情報への信頼のなさを強烈に感じていました。
例えば、amazonのレビュー。「星5の評価はサクラだと思って星1の評価しか見てません」という人はとても多かった。YouTubeやInstagramで紹介されてる商品も、「これは広告案件だから信用ならない」とか「ステマなんじゃないか」とか「どうせ嘘でしょ」とか。そういうことを常に疑いながら、情報を見ている人だらけです。
ユーザーは、信頼できる情報やリアリティのある情報を求めているものの、なかなかそこに出会うことができず、ずっとずっと探し続けている……。
さあ、ここまでの話を整理します。
そもそもユーザーの買い物検討期間は24時間ではなく、とても長いものだということ。
そして、実際に使った未来を想像するための追加リサーチ行動をSNSで行っていること。
そして、彼・彼女たちにはWEB情報に対する強い再疑心があること。
これらの事実を踏まえると、ユーザーは「商品を買った後のリアルな未来が想像できるまでは商品を買えない」という“意外な真相”が輪郭を表しました。
“突拍子もない妄想”か、それとも“意外な真相”か
では、実験です。
僕らが今まで考えたものは、“突拍子もない妄想”ではなく、本当に“意外な真相”と言えるのか。
これを実際のWEBページを使った小さなテストで検証することにしました。
「商品を買った後のリアルな未来が想像できるまで買えない」という真相に対して、「商品の使用感や使用イメージが分かるコンテンツを提供する」ことでアプローチをしてみます。
商品使用写真と商品使用動画を充実化させる、という施策です。
自分たちで商品を買ってきては、 スマホでパシャパシャと、とにかく細かく多くの写真を撮り、ページに載せる。動画に関しても同様です。自分たちでちゃんと使って、その様子を撮影し、リアリティある情報を映像で伝える。
さて、その結果はどうだったか。デデンッ
商品使用写真による効果は、購買率が330%改善、再訪率は132%改善。商品使用動画による効果は、購買率が149%改善、再訪率は114%改善。かなり大きな成果が上がりました。
この検証結果から、「実際に商品を使用している写真や動画は、ユーザーの買い物体験において非常に有益で価値のあるコンテンツである」ということが分かりました。
「商品を買った後のリアルな未来が想像できるまで買えない」というのは、僕らの突拍子もない妄想ではなく、“意外な真相”として呼んで問題なさそうです。
こうして、テスト的に実装したこの機能は、めでたく本格実装されることに。
今日も商品使用写真や動画を見たユーザーに満足できる買い物体験を提供しています。
“意外な真相”に辿り着くために欠かせないもの
“意外な真相”こそがユーザーの感情を強く動かし、よりよい成果を生む。
僕はこのことを、『your SELECT.』での体験を通じて確信しました。
では、この“意外な真相”に辿り着くために欠かせないものは何か。それは、探求心です。
日々の業務の中では「分かった分かった、たぶんこうでしょ」「もうこれ以上はないんじゃないか」と、“意外な真相”に辿り着く前に分かったつもりになったり、諦めたくなったりすることも少なくないことでしょう。
僕自身ヘタレなので、ちょっと諦めたくなることがあります。
だけど、独自性を出すことが難しそうな洗濯洗剤の世界でも、冒頭にお話したアリエールのように、“意外な真相”によってイノベーションというものは実際に起きている。これは、すごく勇気づけられることです。
だからきっと、世の中には“意外な真相”がまだまだある。絶対に見つけられると思うんです。
それを信じて、僕はこれからも探求し続けていきたいと思います。
よろしければ皆さんも、この“意外な真相”の発見に、チャレンジしてみませんか?