『えっ、それAIが?』 なかなか進まぬAI導入を社内改革!”これさえすれば、あなたの会社も明日からAI強者”な組織の作り方
なぜAI導入が進まないのか?
AI技術が急速に進化する中で、多くの企業がAI導入を進めていますが、導入がなかなか進まない組織も少なくありません。
総務省が発表した資料によりますとAIにあたっての導入の課題として、「AIの処理結果の質を担保できない」「有用な結果が得られるか不明」といった意見や「AIの挿入を先導する組織・人材の不足」などがあげられました。
AIが登場してから、広告業界ではその活用方法やAIとの共存に関するさまざまな事例が次々と発表され、年月を重ねるごとにその影響力は増しています。
とはいえデジタルマーケティングの世界では数字がものを言う世界。ただ素敵なクリエイティブを世に放って終わりではなく、ユーザーの行動変容まで求められます。AIにどこまで任せ、どこからがヒトの手の真価の見せどころなのか。
キュービックでも1年ほど前からAIの導入を進める動きは各所でありましたが、業務の推進に繋がり、会社全体に横展開できるような事例はありませんでした。
そこで、クリエイティブ制作を主に担当するTSUCURUチームが音頭をとり、AIを活用することでマーケターが一気通貫で広告クリエイティブを制作できるプロジェクトを進めることになりました。今回は、プロジェクトリーダーの内田真之介(うちだ・しんのすけ)さんにお話を伺いました。
AIは必要か? 広告運用の現場におけるマーケター×デザイナー間の膨大なコミュニケーションコスト
ー内田さん自身はプロジェクトのなかでどのような役割を担っていましたか?また、AI導入においてキュービックではどんなことが課題でしたか?
私はプロジェクトのオーナーとして、最適なメンバーをアサインしチームを組成。陣頭指揮をとりました。
プロジェクトを始める前も、社内ではAIをなんとかして導入せねばというムードがあり、AIの社内チャンネルなどを作ったり、AI定例なるものを設けたりしていました。しかし最近のAI事情の情報共有に留まり、一部の知識があるマーケターが個人的にAIを業務の一環で使っているだけで、売上につながるための施策のなかにAIを活用している部署単位で取り組んでいるところはなかったんです。
しかしAIを導入することで売上を創出しないと意味がないんです。
私は、こうした状況は早急に解決し、AIによってマーケターの仕事が格段に進んだと言える状況にしなければと考えました。
これまでのやり方ですと
まずMTGで前提のすり合わせ
マーケターが依頼内容まとめて送る
デザイナーが要件定義をする
マーケターがそれにFBする…
この工程を何周もして膨大なコミュニケーションコストがかかっていました。
マーケターは例えば急ぎでこんな感じのイメージで急いでと作って欲しい!というオーダーをする。しかしそれができるのは背景がインプットされている場合のみです。
デザイナーは、条件や前提はどうする?といった要件定義がなされていないと動けないわけです。
両者の解像度の違いや伝え方が不足しており、いざバナーが出来上がっても両者のイメージに乖離が生まれ再度擦り合わせることもしばしば。
これでは質のいいクリエイティブが仮にできたとしてもPDCAを回すのが遅くなってしまいます。
目指したのは、
①マーケターがAIを活用し、自身で広告を制作し出稿できること
②デザイナーがAIを活用し、制作の補完をすること
この二つです。どちらもAIで業務の補完を行い、生産性をあげることをこのプロジェクトのゴールにしようと決めました。
これさえすればAI導入がスムーズになる!具体的なステップ
ステップ1:社内の最適なメンバーを選定して推進チームを形成
ースムーズなAI導入のためにどんなことをしましたか?
まずは最適なメンバーのアサインが必要不可欠です。
初めは、同じ課題感をもつR&D(研究開発)チームのマーケター新谷総一郎(しんたに・そういちろう)とともに、”AIの概論を学んで共有”で終わりではなく、会社でいち早く導入できるようなことをはじめようと動き出しました。
当初はデザインの骨子をマーケターが理解していれば早くPDCAが回せてマーケターが自由に広告出稿までできるようになるのでは、と考えていたのでメンバーはマーケターだけ。まずはディスプレイ攻略プロジェクトというのを立ち上げ、転職ジャンルで生成AIで作成したバナーを実際に配信し、その活用の可能性、有用性を検証することになりました。
しかし、実際に進めてみると…なかなかAIで作った広告は数字が伸びない。
このプロジェクトをやる上で最後はデザイナーの手直しがないと出稿できるレベルまでのクリエイティブにならないことがわかり、人員をマーケター・デザイナー・プロンプターで組成しました。
ステップ2:小さな成功体験を積み上げる〜プロジェクトの旗振り役は若手に思い切って任せる
チームの組成が形になってきたころ、ちょうど金融ジャンルでもAIを使って広告のPDCAを回せるような状態になりたい、という声があがってきした。チームで抱えていた課題は、「ディスプレイ広告を攻略したいが、実際にどうAIに組み込んでいいかわからない」というものでした。
やはり壁は「AIを導入したいものの、どう活用したらいいかわからない」が大きいなと感じました。
金融ジャンルではちょうど、新卒で入社した五十嵐大智(いがらし・だいち)がマーケター1年目として奮闘していたので、新卒にも成功体験を積ませたいとも思いました。仕事のモチベーションをあげるために手っ取り早いのは、自分の仕事に責任をもつことです。自分がやらなきゃ、プロジェクトは進まないんだ、と思ってもらえれば自然と仕事の熱量は加速度的にあがります。
幸いなことに、AIのプロジェクトチームは、新卒を支えるメンバーとして、事業開発を支援するマーケターも、デザイナーもベテランを集めていたので体制としては万全です。
実践経験を積ませることで自信につながりますし、AIという領域は、若手とベテランに能力差がまださほどないので、伴走しながら成功体験を積ませてあげられるはず、という確信がありました。
今年の新卒にはもう1人、AIの知識が豊富なエンジニア倉嶋将矢(くらしま・しょうや)がいますので、彼をAIスペシャリストとしてチームに組み込み、新卒コンビにプロジェクトを引っ張ってもらうことにしました。必ず「新人賞」を取らせるぞと彼らと約束し、プロジェクトがスタートしました。
ステップ3:社員教育とAIリテラシー向上のために資料化する
ーAIスペシャリストをアサインしたとはいえ、知見をチーム全体に伝播していかなくてはなりません。ここに苦労される会社が多いようなイメージですが、キュービックのプロジェクトではどのように進めていったのでしょうか?
まずは、職種の壁を超え、共通理解をとることが大事です。漠然とAIを推し進めたいといってもどこから手をつけたらいいのかわからない状況に陥ってしまうかと思います。
AIスペシャリストの倉嶋は職種としてはエンジニアになりますので、まずマーケターの世界を理解してもらうべく、広告のイロハを学んでもらいました。
事業で何をやるかを細かい部分まで理解してないと、どれだけAIを駆使して素晴らしいものを作っても、訴求からずれていて実際には使われないバナーになってしまったということも大いにあります。バナーを作る際に遷移先のLPはどんなものでどんなターゲットを対象としているのか、その辺りのキャッチアップをマーケターへヒアリングしてもらいました。
AIスペシャリストには、プロンプト集とLPを読み込ませれば要約してくれるシステムを作ってもらいました。どんなふうにプロンプトを作成すれば、より欲しい答えに辿り着くのか、この道筋がひかれているだけでぐっとマーケターがAIを使う壁は下がります。
さらにデザイナーには非デザイナー向けのチェックリストを作ってもらいました。マーケターが初期の段階で、このチェックリストを見ながら、自走でブラッシュアップできれば、いざデザイナーが手直しする際の最終工数がぐっと少なくなります。
「なんでこんなことで議論しなきゃいけないの…」というコミュニケーションコストがかかることへのストレスもぐっと軽減されます。一部お見せしましょう。
ステップ4:業務プロセスの見直しとAIへの最適化
業務フローをAIに最適化するためのプロセス設計方法を解説し、既存の手法に固執しない柔軟な姿勢が大事になってきます。このプロセスの見直しや再設計は新卒コンビの五十嵐と倉嶋に奮闘しててもらったので、より技術的な観点やよりプロセスを分解したものは後ほどまた別の記事でご紹介します。
さらに、AIを使う際の基本操作などはチームや部署ごとでNotionにまとめ、わからないことはスラック上でFAQを作り、全体で共有できるようにしました。
AI時代に向けた企業の変革を今すぐ始めよう〜大切なのはその場で同時にやること
今回プロジェクトを進めていく中で、一番大事なのは実務で一緒にやることだと痛感しました。「毎週の定例までにデザイナーもマーケターも関係なく最低1人1本仕上げてくる」としたんです。1人が1本ずつ案を出せばその日検討に議題にあがるのは10本程度になりますからね。
ー毎週、宿題形式にしたんですね。
アイデアを出すうえで、はじめに悩む事に時間を割く事はもったいないと思ったんですよね。まずは小さなアイデアでもAIを活用しながらアウトプットを出すことが大事だと思ったんです。企画の段階で、悩んでいる間に、人が増えれば増えるほど、それぞれの目的や主張が違って言うことが変わる。
そこで、1人で一旦ある程度のところまではAIで作る。
そして、メンバーみんなでMTGの中で品評会形式で精査して、これは良さそうだぞ、というものはMTGの場でデザイナーが手直しします。
その共同作業を可能にするのがAIです。
その場でみんなが一堂に会するところでやれば、意見が変わることもありません。その場でGOがでたら、すぐさま出稿し、検証します。
結果がでるまでに時間がかかると、関わるメンバーのモチベーションも落ちてしまうので、モチベーションを高いまま検証を回すことが大事なんですよ。
今回のPJを通して、やはりAIは広告で使わなきゃいけないし、これがどんどん普通になります。じゃないと置いてかれてしまう。
一番大事なのは、AIスペシャリストとマーケターとデザイナーが実務で一緒にやることだなと感じました。その共同作業を可能にするのがAIなんです。MTGが行われている最中に修正してFIXしてしまえば、その場で解決できるんです。
結論:広告運用の現場において生成AIはもっともっと活用すべき
まだまだ最適解を構築できておらず、模索が続いていますが、デジタルマーケティングの業界的にどんどん活用推進している中で取り組まないと損失は計り知れません。
生成AIの精度向上や新たなサービスの登場など、変化が目まぐるしく、後発者利益は期待できないからこそ、積極的に今から始めるべきだと思っています。
AI導入は、マーケターにとっては一気通貫でクリエイティブ制作ができる足がかりになりますし、デザイナーやエンジニアにとっても基本的なバナー制作などはマーケターに任せ、LPの再構築やその他より難しいクリエイティブの制作に時間を割けられるようになります。
改めて社内にAIを導入するステップについてまとめます。
みなさんもこのステップでAI導入を進めてみてください。